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2018年11月23日 (金)

「アニュータ」のヤーニンのダンス

 「アニュータ」はバレエだけど、ストーリーがハッキリした、一種ソープドラマみたいなバレエ。喜劇でもあれば、悲劇でもある内容。

 アニュータは、主人公の娘さんの名前。アニュータは若く美しく、似合いの恋人もいたのだけど、家庭の貧乏にせまられて、やむなくハゲでチビでデブでそのうえドケチだが小金持ちの役人モデストと結婚する。ある晩、モデストといっしょに舞踏会に出席したアニュータは、その美貌を貴族の閣下に見初められ、夫のモデスト公認(というかその薦め)で閣下の愛人となる。モデストは閣下への献身?により、かねての念願だった勲章を閣下からさずけられて有頂天となり、アニュータはアニュータで、貴族のぜいたくな生活と閣下の寵愛にすっかり満悦し、相変わらず貧乏に苦しんでいる実家の家族のことをすっかり忘れ果て、道ですれ違っても気がつかないまでになる、というストーリー。

 こういう”妻を売って身を立てる夫”は、『金瓶梅』とか『紅楼夢』といった昔の中国の小説にはよく出てくるもので、話としてはいかにもひどいけれど、当時の世相として、貧乏人と貴族との格差が現代では思いも及ばぬほど絶大だったこと、それは経済力のみならず法律上でもそうだったこと、等をわきまえておかなければならないと思う。当時だって、妻に身を売らせてもうけるような夫が、大いに軽蔑され非難もされたのは現在と同じだったけれど、当時は、そうしなければ貴族に対して罪になるという考え(あるいは言いわけ)もまた通用したのだ。逆らえば、職を失ったり、刑務所に入れられたり、最悪の場合は殺されたり流罪にされたりする恐れさえあった。―しかも、それがある程度法律でも認められてもおり、”地獄の沙汰も金次第”で少々度を越しても貴族は何とかなったのだ。そういう世相である以上、無実の罪に落とされるよりは、目をつぶるかわりにもうけるだけもうけよう、という気に小市民がなっても不思議ではない。そして、不思議ではない以上、世相一般も、そういうことに対するモラルが今よりずっとゆるかったのである。
(もっとも、中国の小説の場合は、身を売る妻のほうもしっかり相手から金を引き出し、家計の足しにするのを忘れないのだけど。ロシアと中国では「家族意識」に差があるのかもしれない。)

 「アニュータ」は貴族の閣下とそれにへつらう役人との人間関係だから、格差はそこまで極端ではないけれど、それでも似通ったものはある。勲章を首から下げることに熱烈な憧れを持っていたモデストのように、特別執心する対象がある人間なら、現代でも、権力者にすり寄って妻をも奉りかねないようなのは、いないでもないのでは…

 さて、ストーリー中の役柄としてはずいぶんひどいモデストを演じているのは、バレエ・ダンサー中随一の腕達者ゲンナジー・ヤーニン。閣下から勲章をいただき天にも上る喜びを味わう場面&役所の下役たちからうやうやしく奉られてご満悦の場面。

 

 ろくでもない行いで手に入れた勲章なのだけど、あまりにも歓喜はなはだしいありさまが笑いを誘う^^;いとおしげに首に手をやったり、威張ってふんぞり返ったり、急にへたへたとなって十字を切ったり、かと思うと嬉しさのあまり欣喜雀躍したり…つい「よかったね♪」と声をかけてしまいたくなるほどの喜びよう^^;
 職場で部下たちにヘイコラされる場面では、一転して「余は叙勲者であるぞ」状態。床にひれ伏す(倒れ伏す)部下たちを跨いで歩き、最後はお尻を踏んづける傲然ぶり。

 次いで、職場での精励?ぶりと閣下の前での縮こまりぶりがあざやかな場面(先の場面の終わりのシーンでのスピン&ポーズもすごい)。

 部下が上役から書類を受け取る踊りというのも珍しいのでは^^;
 ここでの圧巻は、名づけて「そろばんダンス」。ロシアのそろばんは(そろばんはいろんな国にあるらしいが)縦方向に持つと見えるけど、それを手に持って注視して上半身を動かさず、足だけで、その場を動かずに踊る。どんなバランスをとっているんだろう^^;そして閣下がやって来ると、にわかに硬直して棒立ちになり、文字通り小腰をかがめてごあいさつ。閣下がいなくなると、今度はそろばんを振り回しつつ勢いよく踊りだし、右に左に縦横無尽だが、またもや閣下が入ってくると、たちまち棒立ちになってペコペコとごあいさつ。―この時イネムリしていた部下は、そろばんで顔をこするお仕置き^^;
 最後、後ろ向きで、ポワントでダダダダーッと袖に引っ込むところもすごい。
 というか、この幕、バレエというよりほとんどお芝居―無言劇じゃないか^^;

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