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2019年1月 2日 (水)

アニュータ&首にかけたアンナ

 バレエのアニュータ(一部しか見ていないのだけれど)がとても気に入ったので、原作も気になり、青空文庫で読んでみた。とても短いので、ほんとにこれで全編なのかはわからないけど。原作名は「首にかけたアンナ」、作者はチェーホフ。

 原作では、アーニャと呼ばれてるほうが多いアニュータ(どちらもアンナの愛称)は、やはり貧家の娘、当時18歳。母が亡くなった後、―この母は、貴族の家で5年家庭教師をつとめた経験があり、ダンスもフランス語もコケットリーあふれる身ごなしをも身につけていたとある、―中学校の図画・書道教師の父は酒に溺れ、たちまち一家は極貧生活に陥ってしまう。中学生の弟たちはけなげに父親の酒癖をたしなめ、姉のアーニャは破れ靴下の繕いから市場への買い出しまで1人でやっているが、母ゆずりの魅力と教養を備えたアーニャは、現在の自分の境遇が我ながら不憫でならず、また一家の先行きが不安でたまらない。そこで、知り合いの紹介で、52歳で風采もサッパリだがとにかく金持ちの役人モデストと、まったくお金が目的の結婚をする。この夫はケチで、出世欲が旺盛で、説教癖があり、俗物で、貧家の出身のアーニャには校長先生か何かみたいに偉そうに見え、不満があっても口にすることなど思いもよらない。モデストは飾り立てたアーニャを連れ歩いては、より上流階級と近づきになって出世の手づるを得ようと苦心し、その意味ではアーニャに装身具など買い与えるのだけれど、あとで彼女が勝手にそれを処分していまいかと引き出しをチェックする締まり屋ぶり。当然、彼女の実家への経済的援助などとんと念頭にない。そういう夫や夫との生活に屈辱を覚えていたアーニャだったが、歳末の恒例の舞踏会に、閣下夫人の御意を得るべく夫が新調させたドレスに身を包んで表れるや、たちまち一身に満場の注目を浴びてしまう。母から習い覚えたコケットリー、ダンス、フランス語の会話、情熱、挑発、そのようなものがすべて時を得て輝き、閣下夫人はおろか、当の閣下の御意をも射止めてしまう。アーニャは、この世界こそが自分が生きる世界であり、ここでの生活が自分に当てはまる生活なのだと悟り、それまでのオドオドした卑屈な娘から、自信に満ちた誇り高い奥方へといっぺんに変貌してしまう。それからというもの、自宅を訪れる客は絶えず、パーティーだ劇だに毎日明け暮れ、夫と2人で食事することも稀になり、その夫といえば、閣下から勲章を授けられて満足至極で、彼女を見る視線もすでに上役を見る時の敬意の眼差しになっている。もはやアーニャは夫に対して言いたいことを遠慮なく言い、金を払わせ、請求書を押し付けている。夫の金で派手に遊び暮らすアーニャと貴族を乗せた馬車は、貧乏なままの父と弟2人のすぐわきを駆け抜けて行き、何か叫ぼうとする父を、弟2人が必死に引き止める。…

 と、原作はこんな感じ。アーニャことアニュータは、言ってみれば産まれる家庭を間違った娘のように描かれている。ほんらい社交界の華となるべく貴族の門に産まれるべきだったのに、貧乏教師の家に産まれてしまったので、しなくてすむはずの苦労をさせられて、ずっと屈辱と恥をくすぶらせているような娘。バレエと違い、貧乏時代の恋人は出てこないし、彼との別れや後の邂逅の場面ももちろんないので、ずっとドライに見える。モデストは、バレエとあまり違わないかな。それから、アルトィノフは原作にも出て来るけど、垢抜けない貴族地主といった感じで、バレエのような颯爽たる色男役ではない。その点は閣下も同じかな。…そうそう、原作では、アニュータと閣下(とアルトィノフ)との特別な関係は描かれておらず、まあ背景のような扱いで、中心はあくまでアニュータとその心理。勲章に対するモデストの執心ぶりも、原作ではバレエほど強烈なものではない。

 アニュータの父親は、けっこう出て来る。私はバレエ全幕通して見てないからわからないけど、バレエとそう変わらない性格じゃないかな。原作では、もともと小心で善良で、お洒落好きで、酒に溺れていて、そのせいで現職を失う恐れ大である。金のために30以上歳の違う男に嫁ぐ娘のアニュータに対し、すまない気持ちを持っているが、何か飽き足りないような気持ちも持っている。極貧なのに舞踏会に出たり慈善のお金を出したり(原作では飲み物一杯を高値で売るのだけど、バレエではプレゼントの包みとお札や指輪を交換してるとこがそうかな)して、なかなかの見栄っ張り。アーニャが間違って貧家に産まれた貴族の娘なら、こちらは貧乏が理解できない落ちぶれた貴族という感じかも。生活力は皆無だが、憎めなく、好人物だが、将来の見通しとかはゼロ。

 だいたい原作は淡々として、ドライで、平凡で、しかしおもしろくて、よくあるロシアの短編という印象かな?

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