歴代評・温庭筠

温庭筠

812866>字は飛卿、別名岐、また庭雲。太原(山西省)の人。若くから才子として知られ、8度腕組み(叉)する間に詩をひとつ作ったことか ら「温八叉」とあだ名されたという。また、進士試験(官吏登用試験)において、替え玉をつとめたという伝説もある。不羈奔放な性格が災いし、ついに自らは 進士に及第することなく、小官で終わった。「鶏声茅店月、人迹板橋霜」の句で有名な「商山早行」詩の作者であるように、詩人としても著名だが、晩唐の代表 的詞人として特に重要である。詞風はきわめて艶麗優美。なお、森鴎外の小説『魚玄機』に主要人物の一人として描かれている。

『介存斎論詞雑著』 清・周済

・皋文曰、飛卿之詞、深美閎約。信然。飛卿醞醸最深、故其言不怒不懾、備剛柔之気。鍼縷之密、南宋人始露痕迹。花間極有渾厚気象、如飛卿則神理超越、不復可以迹象求矣。然細繹之、正字字有脈絡。
(皋 文(清の文人・張恵言)が言った、温庭筠の詞は深みがあり美しく、広々として奥ゆかしいと。本当にその通りである。彼の詞は十二分に練れていて、だからそ の語は怒ったり恐れたりすることなく、剛柔両様の気を備えている。彫琢の細やかさは、南宋の詞人がようやくその痕跡を現した。『花間集』の詞には非常に純 朴な気象があるが、温庭筠のようなのは神理超越していて、形骸だけではとてもその真髄を求められない。しかし丁寧に繰り分けていけば、まさしく一字一字に 脈絡があるのだ。)
・詞有高下之別、有軽重之別、飛卿下語鎮紙、端己掲響入雲、可謂極両者之能事。
(詞には高下の別、軽重の別がある。温庭筠は語を下して紙を圧し、韋荘は響きを上げて雲に入らせた。2人ながら才能の極みと言うべきである。)
・毛嬙、西施、天下美婦人也。厳妝佳、淡妝亦佳、粗服乱頭、不掩国色。飛卿、厳妝也。端己、淡妝也。後主、則粗服乱頭矣。
(毛 嬙(春秋時代の美女)、西施(中国四大美女の一人)は、天下の美人である。着飾った姿も美しいし、あっさりした身仕舞いもまた美しく、粗末な服に乱れ髪を していても美貌が損なわれることはない。温庭筠の詞は着飾った姿である。韋荘の詞はあっさりした身仕舞いの姿である。李後主の詞は、粗末な服に乱れ髪の姿 である。)

『詞概』 清・劉熙載

・温飛卿詞精妙絶人、然類不出乎綺怨。韋端己・馮正中諸家詞、留連光景、惆悵自憐、蓋亦易飄颺於風雨者。
(温庭筠の詞は精妙並ぶものがない。しかし、閨怨の類いばかりである。韋荘・馮延己らの詞は、過ぎ行く光景を惜しみ、自らを嘆いて悲しみ、けだしまた風雨に吹かれて飛びさ迷うようなふぜいである。)

『詞壇叢話』 清・陳廷焯

・飛卿詞、風流秀曼、実為五代両宋導其先路。後人好為艶詞、那有飛卿風格。
(温庭筠の詞は、風流艶冶で、まことに五代両宋の先駆けをなすものである。後人が好んで艶詞を作っても、どうして温庭筠の詞のような風格があろうか。)

『人間詞話』 王国維

・温飛卿之詞、句秀也。韋端己之詞、骨秀也。李重光之詞、神秀也。
(温庭筠の詞は、語句がすぐれている。韋荘の詞は、気骨がすぐれている。李後主の詞は、精神がすぐれている。)